平成29年度 小学校での弦楽器の授業レポート


〜プログラム〜

●モーツァルト アイネ・クライネ・ナハトムジーク (弦楽四重奏)
●ハルヴォルセン=ヘンデル パッサカリア(ヴァイオリンとヴィオラ)
●モンティ チャールダッシュ(チェロとピアノ)
●ショスタコービッチ ピアノ五重奏 4楽章 (ピアノ五重奏)
●ブラームス ハンガリー舞曲第5番(アンコール)



●楽器紹介

「この3つの楽器は何故、何のために大きさが違うのでしょう?
3つの楽器で順番に音階を弾いてみます。3つの楽器の音の高さの違い、指をどういう風に置くと音が変わっていくのかにも注意して聞いてみましょう。」と
ヴァイオリンの市川先生が子ども達に問いかける。
「楽器が大きいほうが低い音が出る→弦が長いほうが低い音→音を高くするには指で抑えて弦の長さを変えている。」という仕組みを、目や音で確かめながらインプット。

●続いてモーツァルトの曲の紹介へ
「4つの弦楽器で一つの曲を奏でるとはどういうことなのか。4人が全く違うことをやるのか、似たようなことをするのか、それとも同じことをするのでしょうか。」
「何故4人で同じ事をするのでしょうか?一人で弾く場合とみんなで弾くのとではどう違うか、どんな効果があるのか、実験してみましょう。」(冒頭4小節を演奏)

チェロから順番に一人ずつ演奏したり、4人が2組に分かれてペアになって演奏したり、全員で演奏するなどして、違いを聴き分けてもらう。

次に、どの楽器がメロディーを弾いているかクイズ形式で当ててもらう。
「メロディーを弾いていたのは誰ですか?」(mm28-31、mm32-35)
第一ヴァイオリンが演奏している部分をチェロが演奏していると言った子どもに対して、チェロのギブソン先生が「光栄です!」と返す。第二ヴァイオリンに主旋律が来る場面は、当然ながら、なかなか当たらなかったが、子ども達は間違いをも楽しんでいた。

「こんな風に弦楽四重奏というのは、時にはみんなで同じことをしたり、グループに分かれたり、メロディーを違う人がかわるがわる弾いたりして、協力して一つの曲を作り上げていきます。今はどういうことが起こっているのか注意して、その移り変わりを楽しみながら全体を通して聴いてください。」

●ハルヴォルセン=ヘンデル作曲 パッサカリア
「モーツァルトの曲では4人が、メロディーと伴奏に分かれて演奏したり、同じメロディーをユニゾンで弾いたりしていましたね。」大島路子先生が、次の曲へとむすびつける。
「次の曲は、ヴァイオリンとヴィオラというふたつの楽器のために書かれました。
出だしの部分は「主題」と言って、この短い部分をいろんなリズムや気持ちで着せ替えをして、この曲は進んでいきます。大事な部分なので、どんな気持ちの曲か、どんな弾き方をしていたか、よく覚えていてね。」(冒頭4小節)

その後、曲のいろんな箇所を取り出して、二つの楽器の役割の違いや、特殊な奏法をする部分を紹介。

「それでは、曲を通して聴きながら、最初の主題がどんな風に変化して、どんなところに行き着くのか、また、弦楽器のどんな奏法が使われているか、よく見て、聴いて、楽しんでください。」

●モンティ チャールダッシュ
ヴァイオリンとヴィオラの演奏の次は、チェロにフォーカス。
「チェロという楽器のイメージは、低い音で伴奏を弾くことが多いと思うかもしれませんが、ここ何十年かでチェロでもメロディーを弾いたりすることがどんどん増えてきています。 エンドピン の長さも時代とともに変わって長くなって、高音が弾きやすくなったり、大きな音に変わってきました。」とギブソン先生がチェロと曲の紹介を始める。

「みなさんには今日、“ルバート”という言葉を覚えて欲しいと思います。少し時間を「盗んで」またどこかで盗んだ時間を戻す。英語で泥棒のことを robber と言いますが、語源は同じです。」とギブソン先生の、プチ英語レッスンが入る。

ルバートを体感してもらうために、子ども達には演奏と一緒に手拍子をしてもらう。「ゆっくり目のところと、踊りたくなるような、ノリノリになるセクションがこの曲にはあります。短調から最後に長調になりますが、ルバートを使って色々とテンポが変わります。一緒に手拍子をしてみてください。ハンガリーの踊りを想像しながらリズムに乗ってみてください。」
ギブソン先生が弾きながら足踏みをしてリズムを示したり、他の演奏者が一緒に手を叩いてみせるものの、子ども達は自ら上手にリズムを感じ、時には演奏者をリードしていた。

●ショスタコービッチ ピアノ五重奏 4楽章
「最後に5人全員が一緒に演奏する曲を演奏したいと思います。」と大類先生が引き継ぐ。
「ピアノ5重奏の曲の中から、今日皆さんにはショスタコビッチという作曲家の曲を聴いてもらおうと思います。どうしてこの曲を選んだというと、心が揺さぶられる美しい曲だと思うからです。」

「皆には、どんな感じに聴こえましたか。」
曲の冒頭を演奏した後、子ども達に曲想を書いたカードからより近い雰囲気を選んでもらう。

その後に、この曲に対する想いを演奏者一人ずつ尋ね、演奏者のお話にあがった箇所を随時、音でデモンストレーションする。

大島先生「森の中を一人歩き進みながら、いろんなことを考えている。いろんな思い出を心によぎらせながら、時々誰かと一緒だったときのことを考える。何かに駆られているように、あゆみを止めたくない気持ち。」

加藤先生「寒い荒れ野をひとりでずっと歩き続けているような感じ。向かう先はもう帰ってはいけない故郷。時々、どこか遠くで軍隊の足音が聞こえる。」

市川先生「五重奏なのに中々5人出て来なくて、ほぼ弾きっぱなしの私はとっても孤独。でもみんなで揃ってもこの楽章の中では悲しみが癒されることはない。最高音に近い音で叫んでみても、誰にも届かない。」

ギブソン先生「いつもと同じ道を歩いているのに、いつもと違う。大切な人を亡くしているのに、普段の生活を続けなくてはいけない。そこから何気なく思い出されるかけがいのない記憶。」

「どうしようもない状態の中で、なんとかしようとする強い気持ちや、ひたすら前へ進もうとする想いなど、皆さんにとって、作曲家からのメッセージはなんだろうかと考えて聴いて欲しいと思います。」(曲の最後まで演奏)