音楽を通しての「 他者理解」と「自己表現」

宮前平小学校 6年生の出前授業にて
フォーレ作曲 ピアノ四重奏 No.1  4楽章

プロ音楽家の生演奏を聴いて、子ども達は何を感じ、どのようなことを学ぶのだろう。

宮前平小学校 6年生の出前授業を行なった。普段授業を担当されている近清えり子教諭は「知覚と感受が行きつ戻りつ音楽を聴く」ことを心掛けておられ、その延長線上に位置づけられる内容にしたかった。子ども達にとって、演奏を「どう感じるか」だけではなく、音楽を「知覚する」ことが、今回の出前授業の課題となった。

まず、プロ演奏者によるフォーレピアノ四重奏の演奏を説明なしで聴いてもらった。子ども達に第一印象を聞いてみた。「貴族が立派な家で生活していて~ある日その人が~。」のように、空想のお話を発表する子どもが多かった(写真参照/左半分)。お話をつくること自体素敵なことだと思うが、作曲者が意図したことはどんなことかを、もっと具体的な音楽の構成や素材から考えてもらいたいと思った。

そこで子ども達に、まず、主旋律と副旋律による音楽の会話を聴いてもらい、それにピアノが背景(ハーモニー)を添えていることを楽器別に聴いてもらった。
次に、よい作品には構成があり、しっかりと組み立てられていると説明し、雰囲気がガラリと変わる部分(Bの部分)と、主旋律が再現する部分(Aの部分)を取り出し、その部分を識別できるようにした。(写真参照/右半分)。

一連の説明を済ませた後、子ども達に再度、同じ演奏を聴いてもらった。何となく感覚で聴いた1回目と、聴く内容に意識を高めた2回目の演奏の聴こえ方がどう違ったか。以下は、子ども達の感想です。


● 1回目はただ怒っているようにしか聞こえなかったけれど、2回目は感情のこもったように聴こえました。
● 2回目の方が1回目より、感情がこもっている気がしました。ちゃんと意図的につくられた曲だと感じられた。
● 今度曲を聴く時は、構成も気にしながら聴いてみたい。
● 作者の心情を考えて聴くことができました。
● 1回目と2回目の演奏をそれぞれ違う視点で聞くと、作曲者の気持ちや家族の思い出、声の大きさなどが感じ取れました。
● 1回目はいかりだけ伝わってきたけれど、解説をしてもらってからは、いかりの中に秘めた美しさも伝わってきた。
● 最初は明るいけどこわい感じの印象でしたが、解説を聞くと言葉では表せないほどの美しさをもつ明るく楽しさが聞こえた、考えることが違うと印象も違うのでおもしろかったです。


やはり、意識して聴いた2回目の方が、より繊細に、より濃厚に音楽が語りかけてきたことが伺える。子ども達はとても柔軟な感受性を持ち、感受したことを意味付け(知覚)し、次のような言葉でそれを表現してくれた。未来に羽ばたく子ども達の想像力の豊かさに心が踊る思いがする。


● 種がどんどん成長していくような感じがしました。途中の暗い場面は山火事が起こったようで、その後にたくさん葉をしげらせるようなイメージがわいてきました。
● この人生はたくさんの大変なことがありながらもとても幸せだったことを伝えたいのだと思います。作者は息子達に感謝して、これからもとても幸せであるよう祈ったのだ。


今回の訪問を終え、音楽の学びとは、学校の授業との連携を通して「他者理解 (作者の意図を理解する)」と、「自己発信(感受したものを表現する)」を促し、リベラルアーツ教育への相乗効果を秘めていることを実感した。